そもそも、アートとは「残すこと」を目的に作られるものである。
何世紀も前の壁画や彫刻、キャンバスに刻まれた筆致を通じて、我々は過去の文化や価値観、思想を読み解くことができる。
しかし、現代アートにおいては、この「残す」という意識が著しく希薄になってはいないだろうか。
インスタ映えを狙った展示が終われば、その作品の多くは売れずに忘れ去られる。写真がSNSにアップされることで一瞬だけ注目を集めるが、それで終わり。
美術館やギャラリーで展示された作品が、その後どうなったのかを知る人はほとんどいない。
さらに、「売れなくてもいい、表現できればそれでいい」と嘯く若手アーティストたちも増えている。
もちろん、売れることだけがアートの価値ではない。しかし、「売れる・売れない」の問題ではなく、「残る・残らない」という視点で考えたときに、今のアートは果たして何を未来に遺せているのだろうか。
インスタ映えの展示が終われば、作品も終わる
SNSの普及によって、アートの消費スタイルは大きく変わった。
かつては、作品の価値は「その場に足を運んで体験すること」によって生まれたが、今や「写真に撮ってシェアされること」によって評価が決まる。
「インスタ映え」という言葉が広がって久しいが、これはアートの世界にも大きな影響を与えた。
原宿や渋谷のギャラリーを覗けば、フォトジェニックなカラフルな作品や、映えるインスタレーションが並ぶ。
実際にこれらの展示は、観客を呼び込むという点では成功している。しかし、問題はその先だ。
展示が終われば、その作品たちはどこへ行くのか
インスタ映えする作品の多くは、一度消費されると、その後はほとんど価値を持たない。
展示期間中は人々がこぞって写真を撮るが、会期が終われば話題にすらならない。そして、売れなければ倉庫へ、あるいは処分される。
これでは、ファストファッションのように使い捨てられるアートにすぎない。
アートは本来、流行を追うものではなく、歴史の中に刻まれるべきもののはずだ。
しかし、今のアートシーンでは、「この作品が10年後、20年後にどう評価されるか」という視点が驚くほど欠落している。
「売れなくてもいい」と嘯くアーティストたちの現実逃避
この現象に拍車をかけているのが、「売れなくてもいい」というアーティストたちの姿勢だ。
確かに、アートの価値は必ずしも市場での評価と一致するわけではない。歴史的に見ても、生前は評価されず、死後に再評価されたアーティストは数多くいる。
しかし、彼らが「売れなくてもいい」と考えていたわけではない。むしろ、多くの偉大なアーティストたちは、自らの作品が「残ること」に強い意識を持っていた。
ところが、今の若手アーティストの中には、「売れなくてもいい」と口にすることで、現実から目を背けている者も多い。
ギャラリーに作品を預けても売れず、制作の継続が難しくなってくると、「アートは金儲けのためじゃない」と開き直る。しかし、売れることと残ることは別の話だ。
売れなくても、残すことを意識した作品は、歴史の中で再評価される可能性がある。
しかし、「売れなくてもいい」と言いながら、何の工夫もなく作品を放置するだけでは、当然のように消えていく。残る努力をしなければ、歴史には刻まれない。
「今は評価されなくてもいつかは評価される」はゴッホの時代の話
かつて、ゴッホのように生前は評価されず、死後にようやく認められるアーティストは少なくなかった。
情報伝達手段が限られていた時代、アートの価値が広く認知されるには時間がかかった。しかし、今は違う。
SNSの時代では、一つの作品が一瞬で世界中に拡散される。もし本当に価値があるなら、時間が経たなくても今すぐに評価されるはずだ。
逆に言えば、「今評価されない作品は、いつになっても評価されない」と考えたほうがいい。
「いつか評価される」という考え方は、もはや幻想だ。アーティストは、「今」見せなければ、今後も誰にも見られることはない。
作品は見せることによって価値が上がる
アート作品の価値は、単なる「物質」としての価値ではない。どれだけ多くの人に見られ、どれだけ多くの議論を呼び、どれだけ社会に影響を与えたかによって、その評価は決まっていく。
作品を人々に見せることによって認知度が上がり、それによって価値も上昇する。歴史に名を残したアーティストたちは、単に優れた作品を作っただけではない。
作品をどう見せ、どう世の中に影響を与えるかを考え、発信し続けたからこそ、彼らの作品は「残った」のだ。
アートを「消費財」ではなく「遺産」にするために
アートは本来、歴史に対する「足跡」であるべきだ。しかし、今のアート市場では、「流行」にばかり目が向けられ、「遺す」ことが意識されていない。
作品の価値は、作られた瞬間に決まるのではなく、見られ、語られ、歴史に刻まれていくことで高まるものなのだ。
流行に踊らされるのではなく、歴史の一部として刻まれるアートをどう生み出していくのか。アーティストも、ギャラリーも、コレクターも、この問いに向き合う時が来ているのではないだろうか。
ただの「今」のためのアートではなく、「未来」に遺るアートを。
それこそが、本当に意味のあるアートなのだから。
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2025年2月21日(金) ~ 3月11日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日2月21日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:2月21日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatのギャラリーにて、現代アーティスト手島領、南村杞憂、フルフォード素馨による3人展「Plastics」を開催いたします。「Plastics」では、表面的な印象や偽りの中に潜む本質を提示した3名のアーティストによる作品を展示いたします。